大判例

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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)1896号 判決

控訴人 大久保善夫

右訴訟代理人弁護士 抜山勇

同 抜山映子

同 本木国蔵

同 佐藤英二

被控訴人 古谷春吉

〈ほか二名〉

右被控訴人三名訴訟代理人弁護士 平山国弘

同 真田順司

同 川畑雄二

右訴訟復代理人弁護士 八木橋伸之

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。控訴人に対し、被控訴人古谷春吉は原判決添付物件目録二の1記載の建物を、同被控訴人及び被控訴人古谷のぶは同目録二の2記載の建物を、被控訴人古谷博は同目録二の3記載の建物基礎部分を、それぞれ収去して同目録一記載の土地を明渡し、かつ被控訴人古谷春吉は昭和四六年一二月一日から昭和四七年一二月末日までは一ヶ月金九、〇〇〇円の割合による金員を、昭和四八年一月一日から右土地明渡までは一ヶ月金三万五、〇〇〇円の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決及び訴訟費用に関する部分を除く部分につき仮執行の宣言を求めるとともに、当審において訴の追加的変更をし、予備的請求として、「被控訴人古谷春吉と控訴人との間で右土地の賃貸借に基く賃料を、昭和四九年八月一日から一ヶ月金三万五、〇〇〇円、昭和五二年五月一日から一ヶ月金五万三、四三五円と確定する。」との判決を求めた。

被控訴人らは「控訴棄却」の判決を求めるとともに、右の訴の追加的変更に対し異議を述べ、かつ、「予備的請求棄却」の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は左記のとおり訂正、付加するほか原判決の事実欄に記載されているとおりであるから、これをここに引用する。

(訂正)

原判決一四丁表二行目の「二号証」の次に「、第一三号証」を挿入する。

(当審における控訴人の新たな主張)

一  控訴人と被控訴人春吉との間の本件土地の賃貸借関係は同被控訴人が訴外衣川から賃借権を控訴人の先代に無断で譲り受けたことに始まり、その後同被控訴人は、本件土地が農地でないのに自作農創設特別措置法に基く買収を申請し、昭和三九年頃には本件土地上に控訴人先代に無断で被控訴人春吉、同のぶ共有名義のアパートを建築し、地代を世間相場なみに増額する控訴人の再三の申入を拒否し、本件の無断建築に至ったもので、右の経過からみても本件無断建築は被控訴人春吉の背信性を示し、信頼関係を破壊するものである。

二  本件土地の賃料は、昭和四八年には右土地に対する公租公課の増大及び右土地の価格の高騰により比隣の土地の賃料と比較して、不相当となった。控訴人は昭和四九年七月九日に同日付の訴状訂正の申立書を陳述し、これにより、本件土地の賃料相当使用損害金を昭和四八年一月一日から一ヶ月金三万五、〇〇〇円に増額する旨の訴変更の申立をした。この申立は、控訴人が本件賃料につきこれを一ヶ月金三万五、〇〇〇円に増額する旨の賃料増額の形成権を行使したのと同様の意思表示を包含するものというべきである。

また、右賃料は昭和五二年五月には前同様の理由により再び不相当となったので、控訴人は、昭和五二年六月一五日陳述した同年四月一二日付訴の追加的変更申立書により、本件土地の相当賃料として、昭和五二年五月一日からこれを一ヶ月金五万三、四三五円に増額する旨の賃料増額の意思表示をした。よって、仮に控訴人の本件賃貸借の解除の主張が認められない場合には、予備的に、予備的請求の趣旨のとおり賃料の確定を求める。

(当審における被控訴人古谷春吉の新たな主張)

控訴人の右各主張は争う。特に賃料相当使用損害金増額の意思表示は賃料増額のそれを包含しない、また控訴人主張の相当賃料の額を争う。尤も、同被控訴人は控訴人との間で本件賃料を改訂するための協議を拒否するものではない。

《証拠関係省略》

理由

本件につき、更に審究した結果、当裁判所は控訴人の本位的請求を失当として棄却すべきものと判断し、控訴人の予備的請求にかかる訴の追加的変更を許されないものと判断する。

その理由は、次のとおり訂正、付加するほか原判決の理由と同じであり、当審において新たに提出、援用された証拠を参酌しても、原審の認定、説示は左右されないので、右の原判決の理由をここに引用する。

(訂正、付加)

一  原判決一五丁表一行目の「春吉本人尋問の結果」の次に「、当審における控訴人本人及び被控訴人古谷春吉本人の各供述」を、同六行目の「きよしから」の次に「交換により」をそれぞれ挿入する。

二  同一六丁表末行から同裏一行目にかけて「本人尋問の結果」とある次に、「、当審における控訴人本人及び被控訴人古谷春吉本人の各供述」を挿入し、同一六丁裏二行目の「ところ、」を「もので賃借人の無断新築、増改築禁止等の約定も特段になかったところ、」と訂正し、同四行目の「操と同春吉間に紛争が生じ、」を削除し、同一七丁表六行目の「原告への手紙)、」の次に、「乙第五号証の二、三、当審における被控訴人古谷博本人の供述によってその成立を認めうる乙第一一号証の一、二」を、同七行目の「本人尋問の結果」の次に、「、原審証人野口静子の証言、当審における被控訴人古谷博本人、同古谷春吉本人、控訴人本人の各供述」を各挿入する。

三  同一八丁表四行目の「ところで」を、「そして、控訴人と被控訴人博との間に、古谷博名義の建物を建てる場合なら、建ぺい率から考えて土地七〇坪を分筆し、その部分につき賃借人を古谷博とし、この名義書換料を金一〇万円位とし、この部分の賃料を多少増額する、古谷春吉名義の建物を建てる場合なら、地主としては特に文句をいわないが礼金を五、六万円とする旨の大筋の話合ができた。しかし、」と改め、同八行目の「交渉の過程で、」の次に、「地主の承諾印が必要なのは建築についてであって、」を挿入する。

四  同裏七行目の「押印を拒んだ」から同九行目の「)」までを「押印を拒み、積水ハウスの担当者をして控訴人に電話させるよう被控訴人博に命じた。その日の午後積水ハウスの担当者が控訴人に電話し、地主の押印は形式的に必要なものと説明したので、控訴人はいい加減なことを言うと怒り、その後同被控訴人とも積水ハウスの担当者とも連絡をとることはなかった。」と改める。

五  同末行の「押印について」から同一九丁表二行目の「行ったが、」までを、「押印についてのみであり、右建物の新築については右の大筋の話合に基き後日たやすく控訴人の承諾をえられるものと軽信し、当時控訴人が勤務の都合上京都市に在住していたため同人との連絡が取りにくかったこともあって、その後控訴人の意向を確認せず、特に、どちらの名義の建物を建てるのか、名義書換料ないし礼金を何時いくら支払うのか、賃料についてはどう定めるのか等について何ら控訴人と相談、取りきめをしないまま同年七月三一日頃右建物新築のための地鎮祭を行った。そして被控訴人らは、」と改める。

六  同一九丁表九行目の「被告古谷博」から同末行の「証拠はない。」までを、「他にこれを覆えすに足りる証拠はない。」と改める。

七  同裏一行目の「ところで」から同二〇丁表六行目の「ところである。」までを、「右に認定した昭和四六年六月一三日の話合は、右のとおりその内容をなす取りきめが確定的になされていないものであるから、これをもって右建物の新築についての控訴人の承諾とみることはできない。のみならず、本件においては、前記特約の趣旨から、控訴人の承諾は書面によってなされなければならないことになっているのであるから、右話合を目して右建物の建築につき控訴人の承諾があったということはとうていできない。他にこれを認むべき証拠はない。」と改める。

八  同二〇丁表七行目の「以上」から同九行目の「ない。」までを削除し、同裏九行目の「被告古谷博本人尋問の結果」を「原審及び当審における被控訴人古谷春吉本人及び同古谷博本人の各供述」と改める。

九  同二一丁表二行目の「認められる。」から同四行目の「ができる。」までを、「認められ、これに反する証拠はない。」と改め、同五行目の「右催告に対し、」を削除し、同七行目の「三一日」を「三〇日」と改め、同八行目の「乙第五号証の一(同月二八日撮影)、」を削除する。

一〇  同末行の「被告古谷博、同古谷春吉各本人尋問の結果」を、「当審証人大久保漾子の証言(第一回)、原審及び当審における控訴人本人並びに被控訴人古谷春吉本人及び同古谷博本人の各供述」と改める。

一一  同二一丁裏四行目の「つたが、」を、「つた。」と改め、同六行目の「到達した。」の次に、「なお、前出甲第五号証の一、二、成立に争のない甲第一五号証によると、抜山映子弁護士が同日現場で右建築工事を制止した当時右木枠の中にコンクリートが流し込まれていなかった部分があることが認められるが、右各証拠を含む本件各証拠によっても、全部について右流し込み作業が行われていなかったのか、一部については既に行われていたのかはこれを確認することができない。)」を挿入する。

一二  同二一丁裏九、一〇行目の「その後の工事」を「遅くとも同月一七日からの工事」と改める。

一三  同二二丁表四行目の「改めて」から同六行目の「同月二四日には」までを、「右建築について承諾をえようとし、右の工事を再開させてほしいと頼んだが、控訴人から現場をみた上で改めて相談しようといわれ、はかばかしい答をえるにいたらず、また同月二四日には被控訴人春吉同博の父子が小金井市の控訴人方で控訴人に会い右承諾をえようとしたが、控訴人から一切弁護士にまかせてあるからといわれて取りあってもらえず、なお、同日付で」と改め、同一〇行目の「当裁判所」を「原裁判所」と改める。

一四  同裏一行目の「争がない。)」の次に、「そこで、被控訴人らは右建物の建築を断念し、昭和四七年五月頃被控訴人春吉所有の別の土地上に建物を新築し、同建物において被控訴人博が自然食品の販売を行っている。」を挿入する。

一五  同三行目の「右事実によれば」から同七行目の「できない。」までを、「なお、控訴人は昭和四六年一〇月一七日以後も被控訴人らが前記建築工事を続行したと主張するが、被控訴人らが遅くとも同日以後の工事を中止したことは前認定のとおりであって、成立に争のない甲第六号証、第七号証の一、乙第五号証の一、当審証人大久保漾子の証言(第一、二回)によってもこれを肯認することはできない。」と改める。

一六  同二三丁表七行目の「しかしながら」から同丁裏一〇行目までを次のとおり改める。

「しかしながら、前記認定の事実及び弁論の全趣旨からすると、被控訴人らも本件建築につき控訴人の承諾を得るためにかなりの努力を払ったものであり、被控訴人らが右建築自体については控訴人の承諾を得られるものと考えたことについては軽卒のそしりを免れないが、右交渉の状況をみると控訴人側にも諾否の応答につき明確を欠くきらいがあったこと、被控訴人らは遅くとも控訴人からの建築不承認の内容証明郵便が到達した日である昭和四六年一〇月一六日限りで工事を中止したこと、仮りに同日昼頃工事現場で抜山弁護士が工事を制止した後同日中に基礎木枠にコンクリートが流し込まれたとしても、右は工事中のことであり深くは咎められないこと、その後被控訴人春吉は既に完成した本件基礎部分についても控訴人の要求があれば撤去する旨を申出ており、控訴人の異議を無視してまで工事を強行する態度には出ていないこと(控訴人申請の工事禁止の仮処分があったのはその後である。)、本件着工にかかる建物は床面積約六六平方メートルで、その敷地は本件土地(一、七六〇平方メートル余)の極く一部分にすぎず、この建築が被控訴人らの本件土地の通常の利用上不相当のもので、控訴人に著しい影響を及ぼすものとはいえないこと、控訴人は右の工事は被控訴人側の再度の無断建築というが、前回のアパート建築の当時には未だ賃貸借契約書は作成されておらず、無断建築を禁ずる約定の存在は明らかでなく、しかも控訴人側が一方的にこれを受忍したのではなく、礼金名義で相当額の金員を受領していることが明らかである。また、控訴人の先代操が本件土地の地主であった当時被控訴人春吉との間で賃貸借の成立及びその後の賃貸借関係について格別の紛争があった形跡は認められず、また、控訴人の主張する自作農創設特別措置法に基く本件土地買収の申立を同被控訴人がしたとしても、これが当然に同人の背信行為となるものであったと認めるに足る証拠はない。以上の諸事実を総合すると、客観的にみて、被控訴人らの本件工事の着手が控訴人に対する信頼関係を破壊するものと認めることは未だ困難であり、従って、控訴人が右着工を理由として本件解除権を行使することは許されないというべきである。」

一七  同二四丁表七行目の「当裁判所に」を「本件記録上」と改める。

(付加)

一  当審において控訴人は訴の追加的変更をして予備的請求を追加し、被控訴人らはこれに対して異議を述べるので検討する。

二  本件本位的請求は、本件土地賃貸借が無断建築又は賃料不払により解除されたことを前提として、右解除に基き建物収去、土地明渡及び賃料相当の損害金の支払を求めるものであり、本件予備的請求は、右賃貸借が存続することを前提に賃料増額の意思表示がなされたものとして、増額された賃料の確定を求めるものであり、両者はその請求の基礎を同じくするものとみることができないから、右の訴の追加的変更は許されない。

以上の次第で、控訴人の本位的請求は理由がなく棄却すべきものであり、これと同趣旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がなく棄却を免れない。

よって、訴訟費用の負担につき民訴法第九五条、第八九条に従い主文のとおり判決する。

(裁判長判事 外山四郎 判事 海老塚和衛 鬼頭季郎)

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